脳神経外科コラム:脳卒中について知る

北大阪けいさつ病院 脳神経外科
越前 直樹
脳卒中について知る 第1話
はじめに
急速な高齢者社会の到来で脳卒中はいまや日本人の国民病の様相を示してきています。また21世紀は脳の時代といわれてます。神経科学は急速に進歩をとげており、積極的な治療はもとより、脳ドックも盛んになり、疾患を予防する時代になりつつあります。
最近ではひとつの病気を治療するのにいろいろな選択肢があるようになりました。何回かにわたり脳卒中についての情報をお知らせしたいと思います。
脳卒中はどんな病気か?
脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることによって、脳が障害を受ける病気です。
脳卒中は、かつて日本人の死因の1位を占めていましたが、近年死亡率は減少しています(死因の第3位ですが、第2位の心臓病との差はほとんどありません)。しかし、これは、救急医療の充実や治療法の進歩により、亡くなる患者さんが少なくなったためで、高齢者の増加とともに患者数はむしろ増加しています。
脳卒中を発症すると、障害を受けた脳が司っていた身体機能や言語機能などが失われたり、場合によっては死に至ることもあります。また寝たきりになる原因の50%以上を占めているといわれています。
脳卒中の分類
脳卒中(脳血管障害)は脳の血管がつまってしまう脳梗塞と血管が破れてしまう頭蓋内出血に大きく二つに分類されます。
このうち脳梗塞は3種類があります。
- 脳の太い血管の内側にドロドロのコレステロールの固まりができ、そこに血小板が集まって動脈をふさぐ「アテローム血栓性梗塞」
- 脳の細い血管に動脈硬化が起こり、詰まってしまう「ラクナ梗塞」
- 心臓にできた血栓が流れてきて血管をふさぐ「心原性脳塞栓症」
これら脳梗塞は脳卒中死亡の60%以上を占めるといわれています。
一方、頭蓋内出血には
- 「脳出血」すなわち脳の中の細い血管が破れて出血し、神経細胞が死んでしまうタイプ。高血圧や、年をとって脳の血管が弱くなり、血管が破れることが原因となるもの。頭痛やめまい、半身マヒ、意識障害などが起こる。脳卒中死亡の約25%になります。
- 「くも膜下出血」脳動脈瘤が破れ、あふれた血液が脳全体を圧迫します。動静脈奇形が出血の原因の場合もあります。突然激しい頭痛、嘔吐、けいれんなどが起こりやすく、意識がなくなり急死することもあります。脳卒中死亡の10%強をしめます。
タイプ別に見ると、以前は脳出血の患者さんが多かったのですが、最近は脳梗塞の患者さんが増えています。
脳卒中の症状は?
頭は全身のコンピューターです。症状はきわめて多彩で脳卒中の症状は百人百様といっていいでしょう。よく見る初期症状をあげてみると・・・
- ろれつが回らない
- 食事中にはしを落とす
- 片目が見えない
- 視野が半分になる
- 顔の半分と片方の手足の感覚がおかしい
- 言葉が理解できない
- 言いたいことが言えない
- 半身に力が入らず歩きにくい
- バランスがとれずうまく歩けない
- 頭が急に痛くなる吐き気を伴う等々・・・・あげることができます。
特に、手足に力が入らない、手足がしびれる、などの症状が現れた後、通常5~15分程度、遅くとも24時間以内に症状が消えてしまうことがあります。
これは「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれ、小さな血栓が脳血管に一時的に詰まっても、血栓がすぐに溶けることで症状が消えるものです。
「一過性脳虚血発作」は大きな脳梗塞発作の前ぶれとも考えられており、脳梗塞を起こした患者さんの30~40%が、「一過性脳虚血発作」を経験しているといわれます。ですから、以上のような症状が起こったら、必ず、そしてなるべく早く医療機関を受診することが大切です。
脳卒中の予防はどうしたらよいか?
これの答えになるものとして脳卒中予防十か条(日本脳卒中協会、2003年)があります。ご参考までに、ご自身のライフスタイルをこの機会に見直すのもよいでしょう。
- 手始めに 高血圧から 治しましょう
- 糖尿病 放っておいたら 悔い残る
- 不整脈 見つかり次第 すぐ受診
- 予防には タバコを止める 意志を持て
- アルコール 控えめは薬 過ぎれば毒
- 高すぎる コレステロールも 見逃すな
- お食事の 塩分・脂肪 控えめに
- 体力に 合った運動 続けよう
- 万病の 引き金になる 太りすぎ
- 脳卒中 起きたらすぐに 病院へ
実際の脳卒中のレントゲン写真をお示しします。

太い血管がまるで糸のように0.3mmにまで狭窄しているのがわかります。

頭部CT検査で内部に白く見える部分がすべて脳出血をきたしているところです。
次回からは、それぞれの疾患について解説をしていく予定です。
皆さんの脳の健康のために適切な情報を提供できればと思います。
脳卒中について知る 第2話
はじめに
前回に脳卒中の急速な増加について説明しました。身近な人の中にも脳卒中になった方がおられる人も多くなっています。身内が脳卒中で倒れ、心配になって病院を訪れる人も増えています。また、前回にも少し説明しましたが、最近ではひとつの病気を治療するのにいろいろな選択肢があるようになってきています。
今回は、脳卒中の中でも特に、出血性の脳卒中(頭蓋内出血)、すなわち、くも膜下出血や、高血圧性脳内出血を取り上げたいと思います
脳卒中の分類
前回の復習になりますが、脳卒中(脳血管障害)は脳の血管がつまってしまう脳梗塞と血管が破れてしまう頭蓋内出血に大きく二つに分類されます。そのうち頭蓋内出血には
- 「脳出血」
主として、長年の高血圧によって傷んだ脳内の細動脈が破綻することにより頭痛やめまい、半身マヒ、意識障害などが起こります。脳卒中死亡の約25%になります。 - 「くも膜下出血」
脳動脈瘤が破れ、あふれた血液が脳全体を圧迫します。動静脈奇形が出血の原因の場合もあります。脳卒中死亡の10%強をしめます。
の2種類が代表的です。
頭蓋内出血の原因とその病態、症状は?
脳出血
脳内の細い動脈(穿通動脈)が突然に破綻し、脳内に血腫をつくります。この際、脳細胞そのものを破壊し、また正常脳組織を圧迫します。

白く写っている部分が脳出血で脳を破壊、圧迫している。
症状は前触れなく突然起こり、激しい頭痛、意識障害を伴うことがあります。麻痺や失語症などを呈します。
急性期の死亡率は約20%になります。
高血圧や、凝固機能異常が脳出血の危険因子になります。
くも膜下出血
原因は動脈瘤の破裂がほとんどで、その他まれに脳動静脈奇形、もやもや病、脳動脈解離、外傷などが原因になります。

内部の不規則に白く写っている部分がくも膜下出血で脳の左右に広がっている。
発症時の症状は「今までに経験したことのない激しい頭痛」これはよく「バットで後頭部を殴られたような」と形容されます。この頭痛に加え嘔気、嘔吐、意識障害を伴うことが多く、重症例では直ちに昏睡に陥り、呼吸障害、死亡することもあります。急性期の死亡率は約50%にも及ぶ一旦発症すると非常に恐ろしい病気です。高血圧や、喫煙などがその危険因子になるとされています。男性より若干女性に発症することが多い傾向にあります。
いずれの出血でも、出血の程度によりその症状のさまざまです。幸いにして出血が少なく軽い麻痺や、程度の弱い頭痛のときもあり、再出血が起こる前に適切な処置を受けることで良好な転帰をとることも十分あるわけですから、頭痛を伴う異常を感じたときには医療機関で検査を受けられることをぜひお勧めいたします。
治療方法は?
脳出血
小さな脳出血でなおかつ神経症状の強くない場合、厳密に血圧を管理して保存的に様子をみて自然に血腫が吸収されるのを待つ方法があります。しかしながら大きな血腫である場合には救命のためにも手術的に血腫を取り出さなければなりません。手術方法としては、開頭して血腫除去を行う方法、内視鏡を用いて血腫を除去する方法、さらに小さな穴をあけて血腫を吸引する方法などがあります。個々の患者応じて適切な方法を選択して治療します。


この患者さんでは内視鏡を使って血腫除去術を行っています。
くも膜下出血
一度破れた脳動脈瘤はかなり高率に再出血をきたします。再出血をおこすことにより状態が悪化し、予後不良になってしまうため、再出血を予防する処置を行う必要があります。この処置には大きく分けて二つの方法があります。すなわち開頭手術で動脈瘤をつぶしてしまうクリッピング術と、血管の中から動脈瘤のなかにコイルを入れて出血しないようにする方法です。
第一のクリッピング術ではこの写真に示されているように顕微鏡で手術を行い、動脈瘤をクリップで挟みこみ出血しないように止めてしまいます。

膨らんだ動脈瘤が金属でつまむまれているのがわかります。
もうひとつのコイルによる方法は開頭はせずに血管から細いカテーテルという管を動脈瘤の中にまで入れて、その中に詰め物をしてしまう方法です。

矢印の部分にくも膜下出血を起こした原因の破裂脳動脈瘤があります。

動脈瘤の中にコイルが挿入されており動脈瘤が造影されなくなっています。
患者さんの状態や、動脈瘤の位置、形によって治療法を選択します。手術がうまくいってもその後に脳血管攣縮や水頭症などといった病態も起こることがあり治療は簡単とはいえません。 この様に今や、個々の患者さんにとって適切なオーダーメイドの治療を選択する時代へとなってきています。
今回は、出血性の脳血管障害について説明しました。このような記事で多くの方が脳卒中について感心をもち持っていただけたら幸いです。次回も脳卒中の情報をお伝えしたいと思います。
脳卒中について知る 第3話
はじめに
前回は、脳卒中の中でも特に、出血性の脳卒中(頭蓋内出血)、すなわち、くも膜下出血や、高血圧性脳内出血を説明しました。今回はその逆に脳の血管が詰まる病気すなわち脳梗塞を中心として取り上げたいと思います。
脳梗塞とは
復習になりますが、脳卒中(脳血管障害)は脳の血管がつまってしまう脳梗塞と血管が破れてしまう頭蓋内出血に大きく二つに分類されます。
そのうち脳梗塞とは脳血管の閉塞により血液循環障害が生じた結果その血管の支配領域の神経組織が血流不足に陥りこのため、神経細胞が死亡する疾患です。 脳梗塞の発生機序としては
- 脳血管自身が動脈硬化をきたして閉塞する場合(脳血栓症)
- 脳以外の部位(主として心臓や頚動脈)で生じた塞栓が脳血管につまり閉塞する場合(脳塞栓症)
- 脳動脈の閉塞、高度狭窄病変の存在下に血圧低下や徐脈といった全身循環障害が加わって脳梗塞が生じる場合(血行力学性)の3つがあります。
現在では、一般的に
- アテローム血栓性脳梗塞:脳の太い血管に病変が起こるもの
- 心原性脳塞栓症:心臓からの塞栓によるもの
- ラクナ梗塞:15mm以下の病変によるもの
に分類しています。
特に、一時的に手足に力が入らなかったり、しびれたりといった症状が通常5ないし15分程度遅くとも24時間以内に症状が消えてしまうことがあります。これは小さな血栓が一時的に詰まったがすぐに溶けることにより症状が消えるために起こる現象ですが「一過性脳虚血発作(TIA)」といわれ、脳梗塞の前触れとして特に注目したい症状です。

写真の黒い部分が脳梗塞をおこしているところです。
脳梗塞の病型と特徴
アテローム血栓性脳梗塞
高血圧や糖尿病、喫煙、高脂血症などの患者さんに起こりやすく、狭心症や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などが合併しやすい。前述のTIAを前触れとして起こしていることが多いとされています。普段から高血圧などの管理をしっかりすることと万が一TIAが起こった場合には直ちに適切な検査治療を受けることで取り返しのつかない大きな脳梗塞を予防することができます。
心原性脳塞栓症
基礎疾患としては不整脈、特に心房細動と呼ばれる不整脈の合併率が極めて多いとされています。その他心臓弁膜症などが原因となります。逆に言うとこれらの疾患をしっかり治療することによりこの疾患の発生率を抑えることが可能になります。先のTIAは頻度は少ないとされており、この意味からも心疾患の治療をきっちりとすることが重要であるといえます。
ラクナ梗塞
高血圧や加齢によることが多いとされています。意識障害を起こすほどにまでなることは少なく回復は比較的良好である場合が多く見られます。
治療方法は?
完全に脳梗塞になった、つまり壊死に陥った脳組織を生き返らせる方法はありません。外科的治療方法や内科的治療方法を用いて、血流の低下で機能が低下しているものの壊死にまではいたっていない脳組織をより多く救ってあげること、そして再発を予防することが治療の中心になります。
外科的治療では、血管(主に頚部頚動脈など)の狭窄を手術で取り除いたり、血管の中から医療用の風船を使って拡張させ、ステントを入れる方法、また血管の吻合手術を行い不足している血流を増やす方法、さらにカテーテルを使った血行再建術などがあります。一方、内科的治療として使われる薬には抗血栓薬(血栓溶解薬、抗凝固薬、抗血小板薬)、脳浮腫治療薬、脳保護薬、血液希釈療法薬などがあります。個々の患者さんに合わせて使い分けが行われます。
薬では、最近、rt-PA製剤という薬が諸外国に遅れること約10年でやっと日本でも認可されました。強力な効果を発揮するため、梗塞部分が出血をきたしてしまう可能性もありますが、劇的に症状が改善する患者さんもおられ、治療の幅が増えてきているといえます。

梗塞発症時血流が極めて乏しくなっているのがわかります。

治療で血流が改善しているのがわかります。
脳卒中について知る 第4話
はじめに
前回までに3回にわたり、脳卒中とはどんな病気か?脳卒中の種類、特にくも膜下出血、脳出血、脳梗塞などについて説明を加えてきました。また、予防するためや、被害を少なくするための方法を解説しました。
今回は、最近よく耳にする脳ドックについて、禁煙外来についてなど当院での取り組みを中心に述べたいと思います。
脳ドックについて
脳卒中はある日突然発症し、多くの場合後遺症として麻痺などが残る重篤な病気です。病状が重いと死亡にいたります。脳は一度障害が起こると修復はきわめて困難な臓器ですから、麻痺などが完全になくなることはなかなか難しいのが現実です。つまり脳卒中など、脳の病気については発病してから治療するよりもできる限り病気にならないように予防することが大切です。
脳の疾患の予防および早期発見、早期治療を目的に危険性の無い負担のかからない方法で脳の検査をするのが脳ドックです。
最近でも俳優の田村高廣さんが脳梗塞で急逝されていますし、働き盛りの方々が破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血をきたし、不幸な転帰をとられたとのことがマスコミでもよく報道されています。もし、脳梗塞を起こしやすい血管があることがわかっていれば治療により未然に発症を防ぐことができたり、また、動脈瘤が見つかれば破裂する前に治療することも可能なことがあります。さらに「認知症だ。高齢だから仕方が無い。」と思われていた患者さんに水頭症や、硬膜下血腫が見つかり適切な治療で元気になられる方もおられます。
特に脳ドックをお勧めしたいのは、家族に脳卒中経験者がいる方や、高血圧のある方、高脂血症(高コレステロール血症など)、糖尿病、肥満のある方、40歳以上の方などで、是非とも検診を検討されてはいかがでしょうか。
脳ドックの検査内容は?
多くの病院では、MRI、MRAを行っています。これらは磁気共鳴画像診断装置と呼ばれるものです。磁気を使いコンピューターで脳やその血管の画像を作るわけですが、使用する機械の性能により診断能力に大きな差ができてしまうのが現実です。参考までに、北大阪警察病院での脳ドックの項目にどんなものがあるかを挙げさせていただきます。
- 最新のドイツ・シーメンス社製(1.5T)を使ってMRI、MRA検査を行っています。MRI検査ではそれぞれの疾患を発見しやすいいろいろな画像(T1 強調、T2強調、Flair画像など)で撮影をします。これにより、脳内の異常(腫瘍、出血、梗塞など)を、またMRA検査では血管の狭窄、閉塞、動脈瘤などの検索を行います。
- 頚部超音波検査では頚部動脈(総頚動脈、内頚動脈、外頚動脈)径の測定、血管内の精査を行い、血管内の動脈硬化の程度を調べます。
- 血液検査では血球、血小板、代謝系(糖質、脂質、尿酸)などの値を調べ糖尿病、高脂血症、痛風など動脈硬化につながる全身の病気をチェックします。
- 身体計測、体脂肪率の測定やレントゲン検査をします。
当院独自の特徴ある検査で他ではほとんど行われていない検査項目として
- コンピューターをもちいて特殊な画像解析を行い、脳内の記憶を司る海馬及び海馬膀回の萎縮度を、解析、評価します。萎縮部位に鮮明な色をつけて表示し、早期もふくめてアルツハイマー病の診断に役立ちます。特に50歳以上の人で記憶力の低下など自覚される方には有効な検査といえます。
- 認知機能検査:臨床心理学の見地より、認知機能の障害がないかテストし、記銘力や見当識、注意・集中力の低下を診断します。
禁煙外来について
喫煙が健康に悪影響を及ぼすことはよく知られています。喫煙というと「癌」が頭に思い浮かびますが、癌だけが発生しやすくなるというのではありません。喫煙は脳梗塞の発生率を1.6~4.2倍にするとされています。また、くも膜下出血の発生は2.7~4.7倍、さらに喫煙と高血圧が重複すると、その危険性は15倍になるとされています。きっかけを見つけてぜひ禁煙をしていただきたいと思います。
診療報酬の改定により、医療機関で禁煙治療ができるようになりました。病院敷地内禁煙が実施されているなど特定の条件をみたしていることが必要で、大阪では当院を含めて病院としては数病院しか申請していないようです。認可施設においては使用薬剤も平成18年6月から保険適用になっています。皆さんの健康に役立てるよう、禁煙外来をさらに推進していくつもりです。
4回にわたり、脳卒中のことを中心に記事を書かせていただきました。 少しでも皆さんのお役に立ててもらえれば幸いです。
脳卒中について知る 第5話
はじめに
前回までに4回にわたり、脳卒中や脳ドックなどについて、述べてきました。今回は脳ドックで見つかる病気としての未破裂脳動脈瘤(出血していない動脈瘤)について解説したいと思います。
脳動脈瘤とは
- 脳の血管にできた瘤(こぶ)で、破裂するとくも膜下出血をおこします。瘤が膨らむと周囲の神経等を圧迫して症状が出現します。
- 未破裂脳動脈瘤には症状のあるもの(症候性)と症状の無いもの(無症候性)があります。
- 症候性のものは、動脈瘤の増大に伴い周囲の脳組織・脳神経を圧迫して症候が発現しているもので、巨大動脈瘤(径2.5cm以上)や解離性動脈瘤(動脈が裂けてできる)もありますが、動眼神経麻痺(目の動きの異常で物が二重に見える。)で発症する内頸動脈後交通動脈瘤のように通常のサイズでくも膜下出血の危険性の高いものも含まれます。いずれにしても症候性未破裂脳動脈瘤は動脈瘤が進行性に増大して症状が出ているので、なんらかの治療を必要とします。
- 無症候性のものは、破裂脳動脈瘤に伴うもの(やぶれた動脈瘤以外の別の脳動脈瘤)、他疾患の検査や脳ドックなどで発見されるものが主です。無症候性未破裂脳動脈瘤が将来破裂する危険が高いのかどうかは議論の分かれるところです。
症状のない破れていない動脈瘤はいったいどんな経過をたどるのか?
未破裂脳動脈瘤の頻度は珍しくなく、成人全体の無症候性未破裂脳動脈瘤保有率は、5%程度であると推定されています。
放置するとどのくらい危険でしょうか?(破裂率)
外国の報告では0.05%とされました。しかし日本の報告では「10 mm未満の年間破裂率は2.5%であるが、それ以上の大きさでは9.5%」との報告もあります。現在、多くの施設で再検討された結果、年間約1%と考えられています。
破れやすいのはどういった条件でしょうか?
- 動脈瘤の大きさ
最も重要な危険因子で、「大きい程破裂しやすい!」と言われています。 - 動脈瘤の部位
「後頭蓋窩、前交通動脈、前大脳動脈末梢部の動脈瘤は破裂しやすい」と言われています。 - 動脈瘤の形
突出部(ブレブといいます。)を持った脳動脈瘤は破裂の危険が特に高いことが推定されています。このような形の脳動脈瘤は大きさの如何に関わらず手術が勧められます。 - 多発性動脈瘤
- 喫煙
喫煙はくも膜下出血の危険因子であると同時に、動脈瘤増大の危険因子にもなります。「診断時の喫煙者の危険性は1.46倍で、その後も喫煙を続けている場合には3.04倍」と言われています。
その他に
- 家族歴
- 高血圧
- 高脂血症
- 糖尿病
- 脳卒中の既往
- 年齢
などがあります。
治療について
本シリーズの第2回に説明しましたが、手術には、開頭手術と血管内手術があります。
治療は必要なのか?
無症候性未破裂脳動脈瘤全体としての破裂率は年間1%内外と決して高いものではありません。しかし、一旦やぶれると現在でもくも膜下出血患者の約半数は死亡するか高度の後遺症に陥ると考えられることから、無症候性未破裂脳動脈瘤の破裂を予防するための手術的治療の危険が5%内外であれば、平均余命が10年以上の対象に手術的治療を考慮することは妥当と思われます。
手術のリスク-開頭手術-
無症候性未破裂脳動脈瘤の開頭手術成績は全体として死亡は1%以下、後遺症はおよそ5%程度と推定されています。ただし、動脈瘤の場所などの条件により危険性は異なります。
手術のリスク-血管内手術-
血管内手術が行われる症例は治療対象が開頭手術とはちがうため(施行しやすい動脈瘤がちがうため)、単純に治療成績を比較することはできません。ただ、完全閉塞、治癒するとは限らず、治療後も出血することもありえます。手術危険性に関わる因子として、「脳動脈瘤の大きさ、部位、患者さんの年齢、虚血性脳血管障害の存在」等が言われています。
筆者の基本方針は以下のごとくです。
- 脳動脈瘤が硬膜内にある場合は、原則として手術的治療(開頭術あるいは血管内手術)を検討するようにします。
- 一般的に脳動脈瘤の最大径が5mm前後より大きく、年齢がほぼ70歳以下で、その他の条件が治療を妨げない場合は手術的治療が勧められます。70歳以上の場合にも、脳動脈瘤の大きさ、形、部位、手術のリスク、患者の平均余命などを考慮して個別的に判断します。
- 患者さんの希望も踏まえて、手術が行われない場合は発見後、約6ヶ月以内に画像による脳動脈瘤の大きさ、形の変化、症候の出現の観察が必要で、動脈瘤の増大あるいは突出部の形成が認められた場合には手術的治療を勧めます。観察期間中は喫煙、高血圧などの脳動脈瘤破裂の危険因子の除去に努める必要があります。
- あとは、患者さんそれぞれの個人特有の問題点(例えば、合併症など)を考慮します。
今回は未破裂の脳動脈瘤について述べました。
脳卒中について知る 第6話
はじめに
前回までに5回にわたり、脳卒中や脳ドックなどについて、述べてきました。半年間にわたり、連載をさせていただきましたが、今回はそのまとめをしておきたいとおもいます。脳卒中とはどんな病気か?どのように分類されるのか?からはじまり個々の疾患について述べさせていただきました。
脳卒中はどんな病気か?
脳卒中は、かつて日本人の死因の3位になっていますが、治療法の進歩により、亡くなる患者さんが少なくなったためで、高齢者の増加とともに患者数はむしろ増加しています。また寝たきりになる原因の50%以上を占めているといわれています。
脳卒中の分類
脳梗塞(脳の血管がつまってしまう)と頭蓋内出血(血管がやぶれる)の二つに分類されます。 このうち脳梗塞は3種類があります
アテローム血栓性梗塞」
脳の太い血管の内側にドロドロのコレステロールの固まりができ、そこに血小板が集まって動脈が詰まる。
ラクナ梗塞
脳の細い血管に動脈硬化が起こり、詰まる。
心原性脳塞栓症
心臓にできた血栓が流れてきて血管が詰まる。
一方、頭蓋内出血には
脳出血
細い血管が破れて出血し、神経細胞が死んでしまうタイプ。
くも膜下出血
脳動脈瘤が破れ、脳全体に血液が広がるタイプ。
最近は脳梗塞の患者さんが急激に増えています。
脳卒中の症状は?
症状はきわめて多彩です。
- ろれつが回らない
- 食事中はしを落とす
- 視野が半分になる
- 手足の感覚がおかしい
- 言いたいことが言えない
- バランスがとれずうまく歩けない
- 頭が急に痛くなる吐き気を伴う 等々
特に、脱力などが短時間で消えてしまうとき「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれこれが大きな発作の前ぶれのことがあります。
頭蓋内出血について
脳出血
脳を破壊して出血します。急性期死亡率は20%。治療は小さな脳出血では血腫が吸収されるのを待つ方法がありますが大きな血腫では救命のために手術的に血腫を取り出します。
くも膜下出血
脳動脈瘤が破れ急性期死亡率は50%。症状は「今までに経験したことのない激しい頭痛」です。高血圧や、喫煙などが危険因子とされています。
再出血を予防する処置を行う必要があり開頭手術で動脈瘤をつぶすクリッピング術と、血管の中から動脈瘤のなかにコイルを入れて出血しないようにする方法があります。
脳梗塞の治療方法は?
完全に脳梗塞になった(死んでしまった)脳組織を生き返らせる方法はありません。
外科的内科的治療方法で、血流低下で壊死にまではいたっていない脳組織をより多く救ってあげることと再発を予防することが治療の中心になります。
外科的治療では、血管(主に頚部頚動脈など)の狭窄を手術で取り除いたり、血管の中から医療用の風船を使って拡張させ、ステントを入れる方法、また血管の吻合手術を行い不足している血流を増やす方法、さらにカテーテルを使った血行再建術などがあります。
一方、内科的治療として使われる薬には抗血栓薬(血栓溶解薬、抗凝固薬、抗血小板薬)、脳浮腫治療薬、脳保護薬、血液希釈療法薬などがあります。最近、rt-PA製剤という薬が日本でも認可されました。
脳卒中予防目的に脳ドックや禁煙外来が行われるようになってきています。
北大阪警察病院の脳ドックでは
- MRI検査で脳内の異常(腫瘍、出血、梗塞など)、またMRA検査で血管の狭窄、閉塞、動脈瘤などの検索
- 頚部超音波検査で頚部動脈の動脈硬化の程度
- 血液検査で糖尿病、高脂血症、痛風など動脈硬化につながる全身の病気
- 脳内の海馬及び海馬膀回の萎縮度を、解析、評価し、アルツハイマー病の診断
- 認知機能検査
などをしています。
禁煙外来について喫煙は脳梗塞の発生やくも膜下出血の発生が極端に増加します。6月からの診療報酬の改定で当院でも保険で禁煙治療をしています。ぜひ健康のために禁煙をお勧めします。
ドックで見つかった未破裂脳動脈瘤について
無症候性未破裂脳動脈瘤は成人の約5%程度に見つかるといわれています。
破裂率年間約1%と考えられています。破裂しやすい動脈瘤は大きい動脈瘤、突出部(ブレブ)を持った脳動脈瘤、多発性動脈瘤、喫煙者の動脈瘤その他です。また動脈瘤の部位により破裂率に違いがあり注意が必要です。無症候性未破裂脳動脈瘤の開頭手術成績は全体として死亡は1%以下、後遺症はおよそ5%程度と推定されています。個々の人で治療方法を考慮します。
以上脳卒中関係のこれまでのまとめをしました。今年、当院は大きく変動の時期を迎えました。リハビリ関係の充実、脳神経外科医師も増員になりました。北大阪警察病院が地域の皆様の役に立つようがんばりたいと思います。気軽に声をかけてください。